和歌山 · 紀伊半島
湯浅
日本の醤油は、紀伊半島の小さな港町・湯浅から始まったと伝えられています。禅僧が伝えた味噌の樽にたまった汁が、味噌よりもおいしかった——。今も数軒の醸造元が、木桶でゆっくりと醤油を仕込み続けています。
偶然が国民的調味料になった
この由来を知ると、湯浅の町で目にするものの意味が分かります。伝承によれば、醤油は狙って発明されたのではなく「気づかれた」もの——味噌づくりの副産物が、それだけで売る価値があると分かったのです。湯浅はその気づきが起きた場所であり、醸造技術が磨かれた場所だとされています。穀醤のような発酵調味料は中国にずっと古くからあったため、日本遺産でも「醤油醸造の発祥の地」という表現が使われています。
物語の主人公である覚心は、帰国後に隣の由良町の西方寺(のちの興国寺)に迎えられ、禅寺として開山となりました。興国寺は、覚心が宋から伝えたとされる金山寺味噌とそこから生まれた醤油、そして虚無僧が吹く尺八の発祥の地とされています。野菜の入った金山寺味噌は、今も湯浅の店先で売られています。
紀州徳川家の保護を受けた湯浅の醤油は、町の中心産業へと成長しました。保存地区は北町・北鍛冶町・北中町・北浜町にまたがる約6.3ha、東西約400m・南北約280mの範囲です。切妻・本瓦葺きで格子を構えた商家や土蔵が細い小路に並び、かつて大坂へ醤油を積み出した大仙堀も今に残ります。
湯浅が博物館ではなく今も醸造の町の匂いがするのは、実際に醸造が続いているからです。1841年創業の角長は保存地区内の古い木造の蔵で今も醤油を仕込んでおり、主屋や醤油蔵など11棟が2022年に町で初めて国の重要文化財に指定されました。指定された11棟には主屋・醤油蔵・麹室・穀物蔵などが含まれ、麹づくりから搾り・火入れまでの工程がそろったまま、今も使われています。駅から徒歩約10分、国道42号沿いの湯浅醤油有限会社(九曜蔵)は、見学や体験の受け入れが最も充実しています。
湯浅の見どころ:時間と料金
主な3か所はいずれも入館無料です。角長の資料館は電話予約が必要なので見落とさないようにしてください。
| 施設 | 内容 | 時間 | 料金 |
|---|---|---|---|
| 角長 醤油資料館・職人蔵 | 1841年創業の蔵元。ジオラマやパネル、実際に使われた醸造道具を展示 | 9:00〜12:00、13:00〜17:00(要電話予約 0737-62-2035) | 無料 |
| 甚風呂 | 嘉永年間以前から1985年まで営業した銭湯跡を使った歴史資料館 | 9:30〜16:30、水曜(祝日の場合は翌平日)・年末年始休館 | 無料 |
| 湯浅醤油有限会社(九曜蔵) | 130年前の大樽でもろみが熟成する現役の蔵。売店・カフェ併設 | 自由見学 9:00〜16:00 | 無料(体験は300円〜) |
訪問の前に
湯浅醤油有限会社のカフェでは「醤油ソフトクリーム」が味わえます。話のネタのようでいて甘じょっぱさがちゃんとおいしく、湯浅の名物の一つになっています。
所要時間の目安は2〜3時間。保存地区の町歩きと角長・甚風呂で1時間ほど、湯浅醤油有限会社で体験をするならさらに1時間ほどです。
角長は、湯浅で昔ながらの手づくりの醤油を造り続ける唯一の蔵元です。昔ながらの醤油をお土産にするならここで。資料館は電話予約が必要ですが、店舗は毎日9:00〜17:00営業です。
甚風呂は水曜休館なので、目当てにするなら水曜は避けましょう。県の観光サイトによると、地元のボランティアガイドを1回3,000円程度で頼むこともできます。
10月下旬〜12月初旬なら、同じ路線で数駅北の有田のみかん狩りと組み合わせるのが自然です。和歌山市から白浜へ海沿いを南下するドライブの途中に立ち寄るのにも便利です。
湯浅へのアクセス
新大阪または天王寺からJR特急くろしおで湯浅駅へ、新大阪から約1時間30分です。湯浅に停車しない列車もあるので時刻表を確認し、停まらない場合は和歌山駅か箕島駅で普通列車に乗り換えてください。駅から保存地区までは徒歩10〜15分、湯浅醤油有限会社までは徒歩約10分です。
車の場合、阪和自動車道の有田IC(大阪方面から)または広川IC(白浜方面から)が最寄りで、どちらからも醸造地区まで10分ほどです。角長には乗用車と大型バスの駐車場が数台分、湯浅醤油有限会社には約10台分の駐車場があります。